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快眠コラム

睡眠と認知症のこわ~い関係 後編

睡眠豆知識
宮崎 総一郎 先生
中部大学生命 健康科学研究所 特任教授 日本睡眠教育機構 理事長
宮崎 総一郎 先生

睡眠の役割

ヒトの眠りは「疲れたから眠る」といった受動的な生理機能ではなく、もっと能動的であり、「明日により良く活動するため」に脳神経回路の再構築(記憶向上)や、メンテナンス(脳内老廃物の除去)の役割を果たしています。

ヒトの脳は、約千数百億個もの「ニューロン」と呼ばれる神経細胞で構成されており、ニューロンをサポートするグリア細胞はその数倍にも上ると見積もられています。 脳は、エネルギーを大量に消費し、非常に繊細で、かつ、脆弱(ぜいじゃく)な臓器であるため、機能が低下しやすく”連続運転‶に弱いのです。研究によれば、16時間以上連続して覚醒している(動かしている)と、脳機能は低下し、酒気帯び運転状態と同じ程度にしか機能しなくなることが分かっています。

睡眠とは「脳による脳のための管理技術」であり、積極的に「脳を創り育て、脳を守りより良く活動させる」機能です。睡眠不足や睡眠障害は脳機能低下をもたらし、長期間にわたると非可逆的な認知症を誘引する可能性が高いと考えられます。

認知症のリスクを高める睡眠時無呼吸症候群

睡眠時無呼吸症候群は睡眠中に気道の閉塞が繰り返し生じる疾患で、大きないびきと日中の過度な眠気が主な症状です。睡眠中の低酸素や頻回な覚醒反応により、高血圧、心臓血管疾患、脳卒中、糖尿病等に加えて、認知症発症にも関連することが報告されています。

また、事例を1つ紹介すると、重症の睡眠時無呼吸症候群患者17人(平均年齢44歳)と、同等年齢の健常者15人に対して頭部MRI検査と認知機能検査を行った結果、重症の睡眠時無呼吸症候群では広範な認知機能の低下が認められ、その低下は海馬、左後側頭皮質、右上前頭回などの灰白質※1量の減少と関連していたと報告されています。さらに、3カ月の治療によってこれらの認知機能が改善し、並行して海馬や前頭部の灰白質量が増加したと報告されています。

認知症予防と睡眠

認知症予防には、発症を防ぐ第1次予防、早期発見・早期治療の第2次予防、進行を抑える第3次予防があります。認知症の第1次予防は、軽度認知障害が対象です。認知症で最も多いアルツハイマー型認知症では、脳内タンパク質凝集体(アミロイドベータ)※2の脳内沈着が数十年もの時間をかけて進んでいくといわれています。そこで、認知症の発症を遅らせるためには、発 症以前の健康な時期から危険因子を減らす生活習慣を身につけ、アミロイドベータの蓄積の進行を遅らせることが有効であると考えられます。

アミロイドベータの蓄積の進行リスクは、高血圧や糖尿病などの生活習慣病がリスクを高める半面、バランスのとれた食事や適度な運動、知的活動などにより予防効果があることが分かっています。

さらに最近の研究から睡眠不足や不眠、睡眠時無呼吸症候群も認知症のリスクを高めることが報告されています。

今後、睡眠の観点からも認知症予防に取り組むことが必要です。特に、30〜50代の比較的若い世代の睡眠不足や睡眠障害、睡眠時無呼吸に対する早期診断、睡眠教育が、第1次予防として重要であると考えます。

【参考資料】①宮崎総一郎:睡眠とは・睡眠からみた認知症診療ハンドブック・全日本病院出版会、東京、2016、pp2―7
※1脳の表面の神経細胞のあるところ
※2アルツハイマー病の主要な病理変化である老人斑と神経原線維変化のうち、老人斑の主要構成成分がアミロイドベータとなる。